こんな病院に行ってはいけない!16のチェックポイント 印刷

 

病院経営に失敗した苦い経験

 じつは私は、昔は病院を経営していた。そして、その経営に苦しんでいた。それは、1980年代前半のことで、景気がよかったから、私はいけいいけドンドンで病院を次々とオープンした。しかし、悲しいかな私自身には経営者としての才覚がなく、結局は病院を潰してしまった。

 いま思えば、原因は典型的な過剰投資だった。なにしろ、数年間で手を広げすぎ、老人向け病院3軒、歯科医院2軒、クリニック2軒、接骨院1軒と、8軒もの病院をつくってしまったのだから、それは行きづまる。

 私は病院を倒産させたために、見事にスッテンテンになった。そればかりか多額の借金を抱え、なりふりかまわぬゲリラ的な仕事をこなして、なんとかそれを返済した。これは、本当に苦い思い出だが、そのためにすべての財産を放出し、かつ自力で借金を返済したことに関してだけは、私はひそかな誇りを抱いている。

 そんなこともあり、以来、私は、医療という見地からも、病院経営という見地からも、病院をチェックするようになった。世間には、私のように病院を倒産させたにもかかわらず、自分の隠し財産にだけは手をつけず、倒産後ものうのうと生きている医者も多い。

 そんな「カネ」の亡者の医者にかかったのでは、患者さんはたまったものではないだろう。しかも、いまは全国の病院の半数以上が赤字という時代である。 

 だから、あなたは、病院に行く前に、必ずその病院をチェックすべきだ。では、どのようにして、「危ない」病院を見分けるか、そのチェックポイントをあげてみよう。

 ただし、ここで取り上げるのは、公共の病院や大学病院ではなく、主に個人経営の病院についてである。医師という私の目から見て、危ない病院にはそれなりの、また、いい病院のもそれなりの傾向がある。

 

「危ない病院」16のチェックポイント

 

(1)すいている病院は「危ない」

 このことを私は何度も言ってきているが、まず、みなさんの大きな誤解は、「いつも混んでいる大病院より個人病院のほうがいい」である。「3時間待ちの3分治療」の時代だから、とくにこういう声は強いが、それは誤解だ。 

 患者を待たせず、診療時間も十分に取ってくれる個人病院が、大病院よりいいということはありえない。個人病院はたしかに待ち時間は少ない。が、大病院でもないのに待ち時間が少ないということは、逆に言えば外来患者の数が総じて少ないということではないのか? 少ないと、もしかしたら、経営状態はよくないのではないか?

 私の知っているかぎり、いつ行っても待ち時間がほとんどない個人病院に、ろくな病院はない。また、個人病院のなかには、繁盛しているところを故意にアピールするために、わざとサクラの患者を置いておく病院もある。事実、サクラ患者になった人を、私は何人も知っている。これには、よくよく注意することだ。

(2)待合室が豪華すぎる病院は「危ない」

 最近では、個人病院でも豪華な待合室を備えているところがある。しかし、これは本題である医療の質とはまったく関係がない。待合室が豪華なのは、単にその医者が金持ちであるのかもしれない。つまり、医療以外に別の収入があるという意味で、その医者の技術、能力とは全然関係のないことだからだ。

 本来の医療とは別のところで目立つ病院は、「何かある!?」と思って、まず間違いはない。「あの病院(先生)は、どこから資金を調達して来たんだろう? 高利貸しだからじゃないだろうか……!?」とか、疑ってかかるべきである。

(3)スタッフが少ない病院は「危ない」

 いい病院か否かを見きわめる最大のチェックポイントがこれだ。現代の病院の成否は、スタッフが充実しているかどうかにかかっている。医療にかかわるスタッフの数が多いかどうかを、まず確かめてほしい。

 たとえば、スタッフ数が多ければ、医療ミスが起こらなかったということがある。私が調べた医療事故のなかには、「あと、もうひとり余分に看護婦が手術に関わっていたら、医療ミスは起こらなかったかもしれない」というケースが、じつは少なくないからだ。

(4)看護婦が忙しそうな病院は「危ない」

 現在の医療現場を見たとき、利益をあげられる医者というのは、人件費を上手に切りつめているか、節税対策がしっかりしている医者だけである。しかし、利益と患者サービスは反比例する。だから、待合室にたくさんの患者がいるのに、ひとりの看護婦が忙しく走り回っている病院というのは、「利益第一主義」で患者サービスはおざなりになる。看護婦がコマネズミのように動き回っている病院では、いつ医療ミスが起こるとも限らないのだ。

(5)若い看護婦ばかりの病院は「危ない」

 看護婦が美人で若いと、男性患者はうれしい。病院の人気も出る。しかし、ベテラン看護婦がひとりでもいない病院は安心できない。もちろん、それは現場を熟知していることもあるが、医者の側から見ても、医療の細かい部分まで熟知しているベテラン看護婦がそばにいるだけで、安心してたくさんの患者を診ることができるからだ。

(6)受付が無愛想な病院は「危ない」

 どんな会社でも、従業員教育がしっかり行き届いているかどうかが、会社の将来を決める。医療はホテル業に似ているので、とくにそうだ。このホテルにとって生命線にあたる接客の部分が欠如した病院は、ダメな病院、信頼のおけない病院と言ってもかまわない。

 かりに、そこの病院に手術の上手い医者がいたとしても、それだけではけっして安心できない。手術の前に患者の家族に、これから行う手術がどういったことを意図したものなのか、さらには手術が終わった後に、経過説明をキチンとできるかどうかは、患者にとってなにより大切だからである。

 これは、その病院で働くスタッフについても同様だ。患者は何らかの不安を抱えて病院の門をくぐるわけだから、スタッフは、少しでも患者に安心感を与えなければ、医療機関に働く人間としては失格である。実際、最近の大学病院を見ても、受付が無愛想な病院はほとんど見かけなくなっている。これは、病院側が医療の提供は技術だけではない、ということを、やっと自覚し始めたからだと思う。大学病院がこれだから、個人病院で受付が無愛想ともなれば、もはや問題外と言っていい。

(7)急患大歓迎の病院は「危ない」

 下町のある院長の経営方針は、ともかく儲かることなら何でもやる、だから救急患者も大歓迎。急患なら処置がいくらでもできるので、専門医がいなくても受け入れる。当直医が内科医なのに、外科手術が必要な骨折患者でも受け入れてしまう。これでは、たとえば心筋梗塞などの患者は助からない。

(8)電話をかけてくる病院は「危ない」

 老人にとっては、電話をかけてきて、「具合はどう?」と聞いてくれる医者は、親切で人間思いと思いがちである。しかし、この民間病院の非常勤医は、親切でしているのではない。電話をして「それならばお待ちしています」と言い、患者が来ると、あれこれと理由をつけて入院させる。

 なんと、この病院では非常勤医が患者を入院させると、1人につき2000円の手当てを出していたのだ。それで、この医者は病院に来ると、まず空きベッドを確認し、それで患者に電話をかけまくるのである。

(9)スタッフの制服がない病院は「危ない」

 赤字企業で起こることは、赤字病院でも当然起こる。まず経費の徹底的な削減である。職員のユニフォーム、つまり白衣を支給しないのは、その徹底した例である。白衣代さえ浮かそうとするのだ。さらに、経費削減の例として、次のようなものがある。

● ディスポーザル(使い捨て)が義務付けられているカテーテル類(管)を、平気で滅菌消毒して使いまわす。注射器と注射針を使い捨てにしないので、最近、院内感染が急増している。

● 老人専門の病院では、入院の老人患者のオムツを、リースの布のオムツにして経費を浮かせる。こうすると、紙オムツより安くすむ。

●文房具類を支給せず、すべて薬品メーカーなどの業者からのもらい物ですませる。

(10)規模に比べて診療科目が多い病院は「危ない」

 患者数獲得のため、できもしない診療科目をふやして、専門外の医者に平気で対応させている病院がある。日本の医者は、どんな看板を掲げてもいいことになっているから、患者数を増やしたいためにだけ、やたらと多くの診療科目を掲げる病院がある。しかし、医者の専門など、患者側にはわからない。

(11)医者の出勤が遅い病院は「危ない」

 診療時間が9時からと書かれているのに、医者が9時半ぐらいにノコノコ出てくる病院がある。どんなに腕がいいと近所で評判の医者でも、こういった、社会人としての訓練が十分になされていない医者がいる病院は、絶対に行ってはいけない。どんな診療を受けるのか、わかったものではない。

(12)設備がありすぎる病院は「危ない」

「あそこの病院は最新設備が整っているから、いい病院だ」という話をよく耳にするが、これは、もっとも危険な考え方だ。問題なのは、この最新設備を医者が十分に使いこなせているかどうか、ということだからだ。たとえばCTスキャンについて言えば、日本は世界でも有数のCTスキャン保有国なのだが、それが十分に医療の現場で生かされているかというと、はなはだ疑問だ。

 現実を言ってしまえば、医者はこの高額の医療機器を前に「どうしたら、早く元がとれるだろうか」と、頭を悩ませる。そのために、患者がちょっとした頭痛を訴えただけでも、CTスキャンを使おうとすることがある。「念のために、来週にでもCTで検査をしておきましょう」と。医者が「念のため」というフレーズをクチにしたら、これは元をとるための検査と思ってまず間違いない。だから、最新の医療機器を備えた病院に行くときは、この手の誘いがあることをある程度覚悟したうえで行ったほうがいい。

(13)土日や夜間診察する病院は「危ない」

 たいていの病院は、診療日は通常木曜日を除く月曜から金曜、それに土曜日の午前中となっている。ところが、なかには土曜日も日曜日も熱心に診療を行っている病院がある。こういう病院に対する判断はきわめてむずかしい。

 もちろん、病院の地元では「あそこの先生は熱心ないい先生だ」といった評判がたつわけだが、土日に診察をするからといって、そこの医者が必ずしもいい医者であるとはかぎらない。土日や夜間に熱心に診察している医者には、必ず「診察する動機」があることを知るべきだろう。たとえば、これは特に地方でよく見られる傾向だが、市長選、県議会議員への立候補という動機である。

 休む時間を惜しまずに地元住民に医療をサービスすることで、人望を高める、名前を売るというのが彼らの狙いかもしれない。こうなると、医療とはまったく違う次元の話になる。

 休む時間、寝る時間を惜しまずに働けば、地元での評価も高くなるし、それとともに収入も増える。その増えた収入を、今度は自分を推薦してくれる政党本部に上納する。こうすれば、上納するお金が多ければ多いほど党のバックアップも大きくなり、議員になる確率は高くなるというカラクリが隠されているのだ。

 これは世の常として、何の目的もないのに寝る時間を惜しんでまで、半ばボランティアのような診療をする人はいないと考えたほうがいい。

(14)趣味はゴルフ、車は高級外車の医者は「危ない」

 私は、講演などで、医者が強く興味を示すのは「政治、投資、趣味」の3つということをよく話す。序列社会に生きる医者ほど政治に興味を持つ人種はいない。ただ、政治に興味をもたない医者は、次に「投資」に目が向かう。不動産に投資したり、株を買ったりの、いわゆる単純な金儲けである。医療で得た利益をこれとは違う手段を使って、さらに増やそうとするわけである。そして、最後が「趣味」である。ところが、この趣味がゴルフと高級外車という医者で、私は名医にあったことはほとんどない。

(15)手術実績を教えてくれない外科医は「危ない」

 これは、手術を受ける場合、つまり外科医にかぎった話である。

 よく、大学病院に行く患者さんから、「執刀していただけるのなら教授の先生にお願いしたいのですが……」という声を耳にするが、「教授だから手術が上手だ」と考えるのは、大きな間違いだ。外科医の命は、経験豊かで手先が器用なこと。つまり、これまでどれだけの実績をあげてきたかであり、肩書きはなんの役にもたたない。

 だから、聞きづらくても、その医者の手術実績をはっきりと聞くべきである。これまでどのような手術をどのくらいこなしたのか、術後はどうだったのか、さらにはミスはなかったのか? これに答えてくれないなら、手術を受けるのは見合わせたほうがいい。

(16)ホームページの貧弱な病院は「危ない」

 病院の過当競争が激化している昨今、医療機関側も積極的にホームページを開いている。いまやホームページを持たない病院などないといっていい。だから、この情報化時代、ホームページのない病院は論外である。ただし、病院の住所、連絡先、診察時間などを並べただけの「お仕着せ情報」しか載っていない、いわゆる「客寄せ用ホームページ」ではダメだ。

 アメリカでは消費者のネットワークが発達していて、医療においても「パブリック・シティズン」という消費者団体が「疑わしい医者」の実名を公開している。「消費者は罪を犯したり、悪質な行為に及んだ医師をよく知る権利がある」と堂々と主張し、医療訴訟中の事件など、なんと3万件近くも公開している。このリストをみていくと、脱税した医者、患者と性関係を持った医者から、患部を間違って手術した医者まで、ぞくぞくと出てくる。さらにアメリカでは、各州の医療委員会、健保団体専用の「医療ミスで訴えられた医者の情報」を集めた「全米医療従事者データバンク」というのもあり、市民グループは「誰でもいつでも見られるようにしろ」と要求している。

 いずれ日本もこうなるだろうが、いまのところは自分でチェックするしかない。