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メタボなんか気にするな! 小太りでいこう PDF 印刷
記事索引
メタボなんか気にするな! 小太りでいこう
多少のメタボの方が健康で長生き
基準値という名のトリック
こんなに変わった高血圧の数値
高血圧患者はなんと3000万人もいる?
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検査数値で決まる「メタボ」

 
 私はかねて、いまの医者は検査のやり過ぎだと批判している。
 たとえば、明らかにただ風邪なのに、尿検査、採血、レントゲン検査、心電図まで撮る。これなど、明らかにやりすぎである。しかし、もっとひどいのが、健康な人を病人に変えてしまう検査である。現代はデジタルの世の中だから、数字が主役。しかし、医療の場合、この数字がくせ者なのだ。

 いま病院で検査を受ければ、その結果は必ず、数値化される。最新医療機器のそろったいまの病院では、主役は医者ではなく、これらの機器がはじき出す数字が主役と言っていいのだ。

 しかし、この数字は、果たして信用できるものなのだろうか?

 たとえば、健康診断にしても、身長、体重にはじまって、血圧、血糖値や体脂肪率まで、受診者の体はすべて数値化されて表わされる。そして、その数値だけで、受診者が健康かどうかが判断される。だから、いくら本人が自分は健康だと言い張っても、数値が悪ければ、それは偽りの健康ということになってしまう。

 そして、そういう数字を医者から聞かされれば、受信者は当然、不安になる。商売上手の医者なら、言葉巧みに受診者の不安をあおるだろう。こうして、自覚症状のない「不健康者」が日夜大量生産されるのが、健康診断なのである。

 これの最たるものが、厚労省と医師会がタッグを組んで導入した通称「メタボ健診」(メタボ診断)である。このメタボ健診は、これまでの健康診断に腹囲測定を加えたもので、男性でウエストが85cm以上、または85cm未満でもBMIが25以上の人は、国から「メタボ(またはその予備軍)」と認定されてしまう。そして、企業は、社員に「メタボ」がいれば、医師や保健師、管理栄養士などを通じ、社員に対して生活習慣改善のための支援を行なうことが義務付けられた。要するに、ダイエットを国が命じるのが、メタボ健診である。

 このメタボ健診の根拠は、近年の急速な高齢化にともない、生活習慣病を原因とする死亡が約6割を占めるほか、医療費における生活習慣病の割合も国民医療費の約3分の1(約10兆円)に上るからだと説明されている。つまり、健診の対象者約5600万人のうち、メタボとその予備軍約1400万人を、保健指導で25%脱メタボ化させれば、医療費を削減できるというふれ込みだった。

 しかし、メタボだからといって不健康だろうか? また、脱メタボで医療費は本当に減るのだろうか?

  多少のメタボの方が健康で長生き

 
 私はかつて、『「小太り」のすすめ』(光文社知恵の森文庫)という本を書いたことがある。 
 これは、お上の決めた「標準体重」など守る必要はないと訴えたもので、「小太り」の方が健康であると、これまでの健康常識を覆そうとしたものだった。

 というのは、痩せて抵抗力の弱った体ほど細菌に狙われやすいし、糖尿病患者のうち肥満者は4割に過ぎないというデータもあったからだ。つまり、無理してダイエットをするより、適度な運動をし、食事と酒を楽しめば、肥っていても健康だと言いたかったのである。

 実際、最近の厚生労働省研究班の多目的コホート研究では、男性はBMI23~26.9の人の死亡率が低い。また、大阪大大学院の磯博康教授らの10万人調査では、循環器疾患全体でいちばん危険度が低いのは、男性でBMI23~24.9、女性で25~26.9となっている。さらに、東京都老人総合研究所の調査によると、腹囲85cm前後、BMI23~25の人はむしろ死亡率がいちばん低くなっている。

 これは、日本ばかりではなく、アメリカのある調査でも、BMI25~29.9の「過体重」の人の寿命が最長となっている。

 ということは、多少メタボの方がずっと健康なのである。
つまり、メタボ健診と保健指導は、健康な人まである意味で病院送りにし、その結果、健診費や指導費などの医療費をかえって膨らませているのだ。これは、メタボ健診ばかりでなく、ほかの健診結果(数値)にも言えることだ。

 “本当は健康な病人”が大量生産される背景を考えてみると、2つの理由が浮かんでくる。1つめは、なにか異常なほどの「健康ブーム」だ。私は、この状態は行きすぎと考えている。もちろん、人間はいつも健康であることにこしたことはない。しかし、本当に健康な人とは、むしろ、ときどき風邪をひいたり、体調を崩したりするものだ。その方が自然であり、まったくなんの病気もしないなどということは、人間が機械でない以上ありえない。

 そして、第2の理由は、やはり医者のモラルの欠如だろう。つまり、そんな気はないのだろうが、いまの多くの医者は、自覚しようとしまいと、結果的には患者に対して詐欺をやっているのと変わらない。

 基準値という名のトリック

 
 日本人は、なぜか「人並み」という言葉に弱い。
 つまり、人より抜きんでているのでもなければ、かといって人以下ではないということに、なぜか安心する傾向が強い。つまり、「平均」が大好きなのだ。
 この「平均」というのを、医療の数字に置き換えると、「基準値」になるだろう。

「基準値」というのは、たとえば、検査をすれば必ず示される数値のことで、健康診断や人間ドックを受ければ、あなたはいくつもの「基準値」で判断されることになる。が、この基準値は、かなりのくせ者と言っていいのである。もっと言えば、「基準値トリック」とでも言うべき、秘密が隠されているのだ。

 ここで、あなたが健康診断を受けたとしよう。すると、あなたは、基準値と検査表の数値とを比較しながら、「私は健康」または「私は病気」と一喜一憂することになる。しかし、それは果たして正しいことなのだろうか?

 もし、この基準値(正常値)が診察する側の医者や第三者である製薬会社の都合で引き上げられていたり、逆に引き下げられていたりしたらどうだろうか?

 たとえば、基準値が60~40だったのをあるときから70~30と変えてみたらどうなるか。数値が上下10ずつ広がった分、異常に該当する人は増える。つまり、病人の数が増え、病院、医者はもちろん、製薬会社まで儲かるというわけである。

 本来、これら検査で設定される基準値は、よほどのことがないかぎり、動かしてはならないものだ。ところが、それが病院や医者の都合だけで、近年はいとも簡単に動かされてきた。
 これでは、心配性な患者にとっては本当にたまったものではないと、私は思う。
この数値のトリックの典型的な例が、高血圧ではないだろうか。

こんなに変わった高血圧の数値

 
 私が医学の道に入ってからすでに30年以上が経つが、この間に高血圧の数値はずいぶんと変わった。高血圧というのはほとんど数値のみで判定するから、この数値の認定の仕方が変化すれば、正常が異常になる。

 もちろん、それは数値を改竄するということではない。そんな大がかりのことなどする必要はない。ただ、ちょっと基準値の幅をいじくればいいのだ。つまり、正常とされる数値の幅を狭くすれば、異常とされる数値の幅が広がる。たったこれだけで、患者の数がどっと増えてしまう。

 1960年代の後半、日本中の医学部でもっとも広く使われていた教科書の1つが『内科診断学』(7版 1969年)という本だった。私もこの本で勉強した。

 この『内科診断学』は、のちに臨床医として初めて文化勲章を受賞する沖中重雄氏が、著者の一人に名を連ねる権威ある教科書で、そこには「健常者の血圧」として「日本人の年齢別平均血圧」が示されていた。年齢別平均血圧に近い数字の算出法は「最高血圧=年齢数+90㎜Hg(以下を㎜Hgを略し、数字で表わす)」で、この「年齢数に90を加えた数字よりも低ければ、血圧は正常」という診断法が、当時の主流であった。

 沖中氏たちは血圧の正常値を150/100と考えていたようで、この教科書には最高血圧が150、最低血圧が100より高い人々の割合が示されて、血圧が150/100以上の高血圧患者の割合は、45歳から49歳の男性では12.7.%、女性は13.7%と記されていた。55歳から59歳でも、男性は 36.2.%で、女性は 31.3%である。

 ところが、これが、1970年代に入ると、世界保健機構(WHO)が、最高血圧を160以上、最低血圧を95以上と規定したことから、日本でも160/95以上を高血圧とするようになった。つまり、この時点で、正常とされる数値の幅がやや広がってしまった。しかし、この160/95以上が、その後長いこと国際標準とされていたので、いまでも高齢の方はそう考えていると思う。

 が、1993年になると、WHOと国際高血圧学会(ISH)が、新しい分類法を発表した。血圧の正常値を「最高血圧が140未満、最低血圧が90未満」と大幅に変え、最高血圧が140、最低血圧が90のいずれかを超えたときには、「境界域高血圧」と呼ぶことになった。これは、正常値と異常値の間に、グレーゾーンを作って、より血圧の診断を緻密にしたわけだが、これをなんと日本では悪い方(つまり医者がトクできる)に解釈することしてしまったのである。

 厚生労働省の保険局国民健康保険課が監修する小冊子に、『血圧と健康』というがある。
 これによると、「血圧は個人差がありますが、WHOでは、最高血圧が140以下、最低血圧が90以下を正常血圧、最高血圧が160以上、最低血圧が95以上を高血圧としています。その中間は境界域血圧と呼びます」と、いかに「境界域血圧」が悪者のようになっている。

 が、WHOの指針は、血圧が140/90を超えると「境界域高血圧」と呼んで、「毎日の生活に気をつけましょう」ということにすぎないのだ。ところが、いつのまにか日本では最高血圧なら140、最低血圧なら90の、いずれか一方が超えても高血圧ということになってしまったのである。

 つまり、グレーゾーンも異常値に含めてしまう方向に進んでしまった。その結果、かつては治療の対象とならなかった人が、血圧が140/90を超えただけで、定期的な血圧測定の対象にされることになったのである。

 2004年、日本高血圧学会は、診療指針を改定し、65歳以上の高齢者については、「降圧目標値」(下げるべき数値)を従来のグレーゾーンの「140~160」から「140未満」に引き下げた。ところが、奇妙なことに、この診療指針には「この目標値が妥当かどうか、現在のところエビデンス(証拠)がない」と書かれている。
これを数値のトリックと言わないで、なんと言おう。

 高血圧患者はなんと3000万人もいる?

 
 厚生労働省と医者のサジ加減ひとつで、高血圧患者が増加し、医者が儲かるという図式ができあがってしまった。これは、メタボでもまったく同じだから、この先、国が「不健康人間」を増やそうと考えれば、数値を多少いじるだけで、いくらでも大量生産できることになる。

 血圧の場合、昔は「高血圧」でなかった人が、いまは「高血圧」と診断され、医者に通って定期診断を受けなければならないのだ。もしや、あなたは、この数字のトリックの犠牲者ではないだろうか? たとえば、140を超えても150なら、定期的に診断を受けるほどのことはない。医療費を節約したければ、そして、本当に健康でいたければ、この程度のことで病院に足を運ぶ必要はない。

 じつは、ある試算によると、141から159までの「境界領域」高血圧に該当する人は、日本人の24~25%に達している。つまり、昔なら、4%ほどにすぎなかった高血圧患者が、いまや4人に1人になっているのである。現在、日本の人口は1億2700万人である。すると、約3000万人も高血圧患者が日本にいることになる。まさか、そんなことがあるはずがない。

 しかし、厚生労働省はいっこうにこの数値を見直そうとしないから、やはり、患者側が正しい知識を持つしか、自己防衛の手段はないだろう。
 したがって、健康診断を受けて、もし「境界領域」という結果が出たら、よくよく医師と相談するべきだ。また、メタボにしても無理してダイエットする必要はない。

 いい医者なら、あなたにほかに問題点がなければ、「なに、ご心配なさることはありません」と言うはずだ。「定期検診が必要ですな」と言う医者は、ろくなものではないと思った方がいい。
じつを言うと、血圧というのは、緊張していたりしただけで、すぐ数値に影響する。だから、プラス30ぐらいは誤差の範囲と考えてよく、低血圧はそれ自体は病気ではないので、気にすることはない。

 
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