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長生きは本当に幸せか?(8) 「QOD」(死の質)とはなにか?「尊厳死」とはなにか?

 近年、よく言われるようになったのが「QOD」(クオリティ・オブ・デス:死の質)です。「QOL」(クオリティ・オブ・デス:生活の質)という言葉は聞いたことがあると思いますが、「QOD」はまだ聞き慣れません。日本ではまだ「死の質」が問われることが少ないからです。

QOL」は、終末期の延命治療に対し、それがかえって患者の人間らしい生活を奪っているのではないか。治療より、生活の質を考えるべきだという観点から言われはじめました。「QOD」はその延長線上で、いかに人間らしく死ぬかということです。

 

 欧米では、近年、死に方の見直しが進み、たとえば英国の「エコノミスト」誌は「QODの国別ランキング」を発表しています。これは、(1)緩和ケアと保健医療状況(2)人材(3) 保健医療のための経済負担力(4)ケアの質(5)地域社会のかかわりの程度という5項目を総合して数値化したもので、日本は14位です。アジアでは台湾だけが6位にランクされてベストテン入りしています。

 ちなみにベスト5は、1位英国、2位オーストラリア、3位ニュージーランド、4位アイルランド、5位ベルギーと、いずれもキリスト教国です。キリスト教国では、牧師、神父が終末期患者のケアに当たっているので、この点がランキングに影響している可能性があります。

 

 とはいえ、日本の順位が低いことは残念です。

 日本では、終末期治療に関する患者の意思確認が進んでいないこと。人工呼吸器、胃ろう、透析などによる延命治療が行き過ぎていることが問題視されています。

 そこで行き着くのが、「尊厳死」と「安楽死」です。

 

 先日、東京の公立病院で、人工透析の中止を希望した女性患者が死亡したことが、大きな問題になりました。この患者は、透析を止めることに同意し、同意書もありました。しかし、医者側が尊厳死を案に勧めたのではないかと疑問視されたのです。その真偽はともかく、「QOD」を考えた場合、患者の死に対する意思がもっとも大きなポイントになります。

 

 尊厳死とは、ひと言でいえば、人工的に延命することを拒み、自然な死を迎えることです。尊厳死を重んじる「死の権利協会世界連合」は、自然な死を望む場合、元気なうちに「リビング・ウィル」(生前の意思)として意思表示をしておくことを提唱しています。欧米では、かなり前からリビング・ウィルに基づく終末期治療が行われ、たとえば、米国では患者の意思で人工呼吸器を外しても医師は罪に問われません。そればかりか、アメリカの一部の州やオランダやスイスなどでは、医者は患者の意思が明確なら、クスリの投与によって死なせる(つまり安楽死)が合法化されています。

 

 しかし、日本では「安楽死」は殺人罪に問われ、「尊厳死」も場合によっては「自殺幇助」となってしまいます。認められているのは、終末期の苦痛・不快感を緩和し、過剰な延命治療を止めることだけです。はたして、これでいいのかどうかは、今後の「高齢社会=多死社会」の進展次第です。
 人生とは、ある意味でどのように死んでいくかです。人間としての尊厳を失ってまで治療を続け、長生きすればいいのでしょうか?長生きだけが善なのでしょうか?

 

2019年5月 

 
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