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長生きは本当に幸せか?(1) 人生100年時代は本当に来るのか?

  最近、さかんに「人生100年時代」という言葉を聞きます。証券会社や生命保険会社が、この言葉を使って商品を宣伝しているので、まるで私たちは100歳まで生きなければならないような気にさせられます。

 しかし、本当に私たちは100歳まで生きられるのでしょうか? 長生きしてなにかいいことがあるのでしょうか? 非常に疑問です。

「人生100年時代」の出元は、政府です。安倍政権は2017年に「人生100年時代構想」を打ち出しました。やがて日本人は100歳まで生きるのが確実なる。そうなったら、現在の社会システムではうまくいかない。どうしたらいいのか?と、有識者会議を度々開いています。

 

「人生100年時代」は、もともと英ロンドン・ビジネススクール教授のリンダ・グラットン氏らが著した『ライフ・シフト』というベストセラーが発端です。この本では、これからの人間は寿命が延びるにつれて、人生設計を変えていかなければない。これまでのように、「教育→仕事→引退」の3ステージの人生はなく、マルチステージで生きることが提唱されています。この考え方は、「一億総活躍社会の実現」という安倍政権のスローガンにぴったりでした。つまり、これから私たちは、引退して余生を送るなどということは考えず、元気でいられるうちは仕事をして生きるというのです。「死ぬまで引退しない人生」を政府は提唱しているのです。

 

 しかし、医者の私の実感からは「人生100年時代」が来るとはとても思えません。

 厚生労働省の高齢者調査(2017年)によると、現在、100歳以上の高齢者は全国で67824人に上り、この20年間で約6.7倍も増えたといいます。また、国立社会保障・人口問題研究所の将来人口推計によると、100歳以上の高齢者は今後も増え続け、2025年には約133000人、2035年は約256000人、2050年には約532000人になるといいます。

 すでに、日本人の平均寿命は女性87.26歳、男性81.09歳に達しています。医学は日進月歩し、最近はゲノム治療まで行われているので、平均寿命が今後も伸びるのは確実です。そのため、2007年生まれの人の半数は107歳まで生きられるという予測も出ています。となると、現在、3040歳代の人は90歳を視野に、20歳代の人は100歳を視野に入れなければなりません。

 

 ところが、これは計算上の話で、現実は違うのです。いくら医学が進歩しようと、老化は止められません。平均寿命は伸びても、元気で健康でいられる「健康寿命」が同じように伸びるかどうかはまだわからないのです。

 私は、仕事柄、老人施設の現場に足を運ぶことがあります。そこで目にするのは「寝たきり老人」の多さです。正確な統計はありませんが、現在、約200万人の高齢者が寝たきりで暮らしていると思われます。日本は、世界で類を見ない「寝たきり老人大国」なのです。

 私はそういう高齢者の方々、つまり胃ろうや人工透析で生かされている方々から、よくこう言われます。「先生、もう回復の見込みはないのなら生きていたくありません。なんとかしてくれませんか」

 

 日本では、65歳になると「高齢者」になります。そこで、高齢者の仲間入りした人に「何歳まで生きたいですか?」と聞くと、たいていの人は「やはり平均寿命までは生きたいですね」と答えます。しかし、平均寿命の前に、健康寿命がやって来ます。その年齢は、男性は72.14歳、女性は74.79歳(2016年厚労省)です。現時点で人が平均寿命で死ぬと仮定すると、男性で約9年、女性で約13年もの「健康ではない期間」があるのです。

 この問題を解消せずに「人生100年時代」は語れません。とすれば、「人生100年時代」とは、なんと残酷な時代ではないでしょうか。

 (2019年5月)

 

 
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