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19/09/01●前立腺がんと診断されても、私がそのまま放置している理由

 

じつは、この6月、私は「前立腺がん」だと確定診断されましたが、そのままにしています。普通は手術するのですが、まったくやる気がありません。その理由を、夕刊フジのコラムに書きましたので、以下、その原文を再録します。

 

前立腺がんの確定診断から数カ月、なぜ私はがんを放置しているのか?(上)

  じつは、私はいま前立腺がんを患っています。がん宣告を受けたのは、今年の4月のこと。ダイナミックMRIによる検査の結果、「ステージはT2で、大きさは1センチほどです」と告げられました。

 一般の方なら、がん宣告を受けるとショックを受けます。しかし、私はこの結果を予期していたため、やはりと思っただけでした。そして、今日まで、ほぼなにもしていません。懇意の専門医に頼んで免疫療法を試してもらっていますが、それだけです。つまり、がんを放置しています。

 

 前立腺がんには、3大標準治療とされる、「手術(外科治療)」、「放射線治療」、「ホルモン治療」があります。このうち、たいていの場合、医者は手術を勧めます。この3つを組み合わせることもあります。しかし、私はすべて拒否。拒否というより、はなから手術は考えていませんでした。

 というのも、前立腺がんは進行が極めて遅いがんだからです。たとえ放置しても、暴れ出すことはほとんどなく、寿命をまっとうできる可能性のほうがはるかに高いのです。

 

 私の場合、10年ほど前から、血液検査によるPSA(前立腺特異抗原)の数値が高めでした。PSA数値が高いと、前立腺肥大や前立腺がんが疑われます。PSAの基準値は5064歳で3.0ng/mL以下、6569歳で3.5ng/mL以下、70歳以上4.0ng/mL以下です。

 私は、10.0ng/mLを超えていました。ですから、がんがあって当然なのです。

 

「そんなに数値が高いのに放っておいていいんですか?」と、事情を知らない人は聞いてきます。これには「いいんです」と答えるほかありません。

 なぜなら、PSAを問題にするのは、ほぼ日本だけだからです。アメリカの場合、PSA検査はほとんど無意味とされ、高くても日本のようにすぐに「生検」とはなりません。

 この生検がまた曲者で、これをやったために、出血多量で体調を壊した、また腎不全になったという方がいます。前立腺がんの生検は、直腸あるいは会陰部から針を刺入して細胞を採集します。これはけっこう難しく、下手な医者がやるとかえってこじらせてしまうのです。

 そのため、私はダイナミックMRIという体を傷つけずにすむ方法で、確定診断をしてもらったのです。

 

 私の確定診断の「ステージT2」というのは、がんの進行度の分類法である「TNM分類」のT(原病巣)が、2であるということです。T1だと初期がん、T2はそれが進んだ状態、T3になるとがんは浸潤していて、T4になるとリンパ節や骨などに転移しています。つまり、私のがんは前立腺内に留まっている状態で、1センチ大というわけでした。

 

 これなら、私としては、想定内であり、まったく問題ないのです。ところが、医者は、このような初期がんでも、たいていの場合、手術を勧めてきます。前立腺と精のうを摘出し、その後、膀胱と尿道をつなぐ、前立腺全摘除術が一般的で、これを行おうとするのです。しかし、手術したほうが、結果はよくありません。

 私は手術したために、尿失禁になった、性機能を失ったという人を数人知っています。性機能を失うとうのは、ずばり勃起不全で、前立腺の周囲には勃起に関わる神経が走っていて、前立腺を摘出する際に、その神経を切断してしまうことがあるからです。

 そういうこともあって、アメリカでは、前立腺がんの手術はほとんど行われていません。それなのに、なぜ、日本の医者は手術をしたがるのでしょうか?

 次回は、これを説明します。

 

前立腺がんの確定診断から数カ月、なぜ私はがんを放置しているのか?(下)

 

 前回述べたように、私は、ステージT2の初期の前立腺がんと診断されましたが、今日まで、がんを放置したままにしています。下手に手術を受けるより、このほうがずっと安心、自然に暮らせるからです。

 ところが、医者はたいてい手術を勧めます。

 

 昔は開腹手術でしたが、最近は、腹腔鏡手術、ロボット支援下手術(ダヴィンチ)が主流になりました。とくにダヴィンチが導入されてからは、これを使う医者が増えました。2012年に、ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘手術が保険適用されると、そこから一気に手術数が増えたのです。つまり、医者は患者さんのことより、こういう高額な医療機器の減価償却を急ぐため、手術を勧めるのです。

 もちろん、手術は診療報酬の点数が高いという理由もあります。さらに、泌尿器科というのはどちらかというと地味な科目なので、手術が入ると活気づくということもあります。

 

 近年、前立腺がんはものすごい勢いで増えています。厚労省の統計によると、前立腺がん患者数は1990年(平成2年)の26000人から2014年(同26年)には211000人と、なんと8.1倍にまでになっています。

 その原因として、次の3点が挙げられています。

 

1、食生活の欧米化(動物性脂肪の摂取の増加)
2
、日本人の高齢化(高齢者の増加)
3
PSA検査の普及(早期がんの発見の増加)

 

 このうち、23、とくに3がもっとも大きな原因です。

 前立腺がんは歳をとるにつれて発症率が高まるので、高齢化により患者が増えたのは間違いありません。しかし、検査をしなければがんは発見されません。つまり、PSA検査が普及したことが最大の原因なのです。

 私もPSAの数値が高いので、しばらくはほうっておいたのですが、今年になって確定診断をえようと、ダイナミックMRI検査をしたところ、がんが判明したのです。

 昔は、前立腺がんなどほとんどありませんでした。それは、PSA検査がなかったから発見されなかったというだけの話です。だから、患者さんが死亡して解剖してみたらがんがあったというケースが多かったのです。

 

 アメリカでも前立腺がんは増えています。

 しかし、アメリカでは、「アクティブ・サーベイランス」という考え方が一般化していて、すぐに手術はしません。これは、たとえがんが見つかっても検査を続ける。そうして、いざ手術が必要になったと判断したときにだけ、手術を行うというものです。進行が遅い前立腺がんは、その典型的ながんです。私が、がんを放置しているのは、このためです。

 

 アメリカでは医者の言うことをそのまま受け入れず、「賢い選択」(チュージング・ワイズリー)をしようという運動が盛んです。この運動は、2011年に米国内科専門医認定機構(ABIM)財団というNPOが始めたものですが、いまや70以上の医学会や団体が参加しています。

 その「賢い選択」の一つが、「前立腺がんの早期手術は避ける」です。

 こうした「賢い選択」は、いくつもあります。

 たとえば、「肺がんのCT検査はほとんど無意味」「4歳以下の子供の風邪に薬を使ってはいけない」「大腸の内視鏡検査は10年に1度で十分」「リウマチの関節炎でMRI検査をするのは無駄」などです。

 

 前立腺がんに限らず、どんながんでも手術を選択するときは慎重であるべきです。自分の年齢、体力、平均余命を考え、がんの部位と進行度で判断するのが、もっとも賢明な選択です。そのとき、親身になって相談に応じてくれる医者がいるかいないかで、あなたの余生は決まると言っても過言ではありません。

 
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